2012年6月16日土曜日

持続可能性(サスティナビリティー)の獲得を目指して

1.日本の住宅のサスティナビリティー

キューブは、阪神・淡路大震災がきっかけで生まれました。
震災を通じて一番強く感じたのは、日本の集合住宅はサスティナビリティを持ったものではないということでした。

もともと日本の家屋は木造で、台風や地震で壊れたら、また建てるというスクラップ&ビルド方式でした。
このように壊れてもすぐ簡単に再生できるシステムは、江戸時代末期くらいまでの長い歴史の中で、風土に適応した形で構築されてきたもので、自然と協調するサスティナビリティを持ったシステムとして高い完成度を持っていたと思います。

ところが現在は、そうではなくなってしまいました。
明治時代以降、それまで日本人が持っていた住まいの文化とはちがう、自然と対峙するような石造りを基盤とする文化が西洋から入ってきたからです。
石造り文化では、建物が恒久的に存在する事が前提と考えられており、その建物を永く使い続けるための管理や修理が重要です。
しかし日本は地震国であるという風土特性から、建物が恒久的に存在するという事を前提に考える事が困難で、独自の持続可能なシステムを構築する必要があります。
日本は未だそのシステムを模索している状況で、建物を大切にアフターケアするという文化も未成熟です。
このように風土に合致したシステムが未完成なことにより、阪神・淡路大震災では被災したマンションに住む多くの人が、再建か、修繕かで衝突することとなりました。
この問題は、区分所有法が前提とする合意形成に依存した建物運営システムに起因するため、被災マンションに特有のものではありません。
日本の住宅をほんとうに大切に永く住めるようにしていくためには、高耐久で、住む人のライフスタイルの変化に対応できる順応性の高い建物とすることが必要ですが、それだけではなく、維持管理をスムーズに行っていくための建物運営システムの構築が必要です。
 

2.コーポラティブ方式の可能性の追求

コーポラティブ方式は、自由設計であることにより居住者の住戸に対する愛着心が育まれ、永住意識が生まれる事で管理運営に関する意識が高まり、区分所有で必要な合意形成を将来円滑に得るためにも有効であるといわれています。
キューブは、震災復興やスケルトン定借、権利変換等、様々な状況に応じて土地利用にコーポラティブ方式を活用する事で、コーポラティブ方式の可能性を探ってまいりました。

まず、初めてコーポラティブ方式を採用したスクウェア六甲では、阪神淡路大震災で被災した長屋の再建を行いました。従前地主は高齢者が多く、今までのコーポラティブ方式で取られてきたような方式は不可能な状況で、事業運営方法を1から考えていかなければならない状況でした。しかし、この事業を通じて円滑に合意形成を得るための方法を見出すことができ、今までの日本の集合住宅における問題点が、コーポラティブ方式により改善できるのではないかという可能性を実感しました。



塚口コーポラティブハウスは、関西で初めてスケルトン定借を実現したプロジェクトです。スケルトン定借は、旧建設省建築研究所で開発され、高耐久で優良なストックを建築し、長期にわたって維持管理していくハードとソフトを融合した非常に優れたシステムですが、この事業でスケルトン定借に直接関わることで、維持管理運営をスムーズに行っていく為の建物運営システムの重要性を認識しました。



デュプレックス宝塚千種は、接道条件、敷地規模など既存方式での土地利用が困難な敷地でしたが、屋上テラス、中庭や地下室など、テラスハウス形式でしか実現できない、ゆとりある自由度の高い専用空間をコーポラティブ方式で実現しています。このプロジェクトでは、できる限り機械設備等を排し、長期的なメンテナンスコストが低減できるように取り組みました。



シェヌーア御影は、老朽化マンションの建て替えを等価交換を活用して行いました。従前は法定相続により兄弟間で共有されており、手を付けることが難しい状況でしたが、事業を通じて分離処分できる形に変換しました。



アンビエンテ北野は神戸北野異人館街の中の事業ですが、ここには震災後、廃墟になった建物が放置されていて、地域の人々から景観や防犯上良くないと懸念されていました。
この案件も、接道条件、敷地規模など既存方式での土地利用が困難な敷地でしたが、周辺の街並みに調和するように出来るだけ配慮して、土地のポテンシャルを最大限生かした事業をコーポラティブ方式で実現しました。



帝塚山イクスでは関電不動産と共同で事業化することで、コーポラティブ方式に事業としての安定性を与える取り組みを行いました。



また、レスタジア南田辺は、従前は権利関係が錯綜した老朽化木賃住宅が建ち並んでいましたが、事業化を通じて権利変換を行い権利関係を整理し、南側が公園に直接隣接する素晴らしい立地環境を活かし、どの住居からも緑豊かな公園が庭のように見渡すことのできる住まいを実現することができました。



宇多野コーポラティブハウスは典型的な旗竿形状の敷地で、通常の開発手法では事業化が困難な敷地でしたが、環境共生に正面から取り組み、自然と共生することを希望される方々と一緒に、今まで存在していなかった住まいを実現しました。



ル・パッサージュ北野は、都心の高度容積地におけるわずか40坪程度の土地で、優良な住宅供給の可能性を開くことに取り組みました。



現在進めている、内淡路町コーポラティブハウスは、等価交換を有効に活用して、中心市街地の老朽ストックの建て替えに活かしています。



また、宝塚寿楽荘コーポラティブハウスでは、見事な石積擁壁や植栽などが施され、古くから邸宅であったという往時の面影を今に残す周辺の街並みと共生する事を目指しています。閑静で緑豊かな優良な邸宅地において、緑を伐採し石積擁壁を撤去して画一的な住宅地が分譲されていく中、石積擁壁や木々の緑を生かした庭園マンションとして計画しています。



以上のように、一つ一つ具体的な事業を通じてコーポラティブ方式の持つ可能性を探り、取り組んできました。



3.持続可能な美しいまちなみに向けて

神戸北野町で戸建て住宅群の設計をするにあたり、既存異人館を再生し、持続可能な美しい街並みを創るために、個性と調和のバランスを意識して計画を行いました。



他の建築家とともに関った、京都の『北大路まちなか住宅コラボレーション』というまちづくりでは、その土地柄を活かし、一戸一戸の住宅は、周りの景観との統一感を持ちながらも各建築家の個性による多様性に富んでいるというものでした。


ニュータウンが歴史的街並みのように持続可能な美しい街並みをなかなか獲得できていないのは何故か。
持続可能な美しい街並みを実現するには、何らかの形で景観に対するガバナンスを働かせる事が必要ではないか。
景観に対するガバナンスを持続可能な形にするためにはどのような方法があるのか。
これらのプロジェクト等を通じて、まちなみが持続可能性を獲得する為の一つの方向性をイメージする事ができたと感じています。



4.リノベーションを通じて

都市の住宅ストックが数の上で需要を上回ったと言われて久しくなります。
しかし、築年数を経たストックには、現代のニーズに合致しないことで十分に生かされていないものが数多く存在します。このように、建物の老朽化には、構造的老朽化だけでなく、機能的老朽化が存在します。建築は利用されることではじめて生きた建築となり、生きた建築が活力ある都市の基盤となります。
構造的には問題なくても機能的に老朽化した建築は、リノベーションによって機能性をよみがえらせることが可能です。
キューブでは、既存ストックを再生し生かす試みとして、積極的にリノベーションに取組むことで、建物の持続可能性が生まれる可能性を探っています。


5.大規模修繕への取り組み

また、マンションの大規模修繕にも積極的に取り組んでいます。
マンションの大規模修繕に関しては、5月30日のブログ「管理について2」で書いたように、様々な問題がひそんでいます。
実際に、大規模修繕に取り組む中で得られる経験を、新規に設計する計画にフィードバックし、マンションを良好な状況で維持管理する為には非常に重要なファクターである、メンテナンスコストの低減や、長期的に高耐久な建物を設計するように配慮しています。
 

コーポラティブハウスは、全国の住宅戸数からすれば、まだ1%にも満たない小さな動きです。
持続可能性を意識したまちづくりの試みやリノベーションの取り組みもまだ始まったばかりです。
けれども、このような試みを通じて、日本独自のサスティナビリティを持ったシステムの構築に繋がるヒントを見つけることができれば、将来全ての住まいに波及する可能性を持っていると思います。

このたび、京都で提案した「1000年住宅」は、日本の集合住宅にサスティナビリティーを獲得する為に今まで取り組んできた経験の、集大成的なプロジェクトであると思います。次週より「1000年住宅」のことをご紹介させていただきます。
より豊かで、より確かな都市環境を創造するために、これからも積極的に取り組んでいきたいと考えています。

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