2012年6月20日水曜日

1000年集合住宅 誕生!:3

次に、街並みの持続可能性について見てみたいと思います。

江戸末期の日本の街並みは、とても整然として美しかったと言われています。
それは、当時の多くの外国人の口を通して語られていますが、この写真を見ると、本当に美しかったであろう事が想像できます。


このような美しい街並みが形成されるに至った背景には、大きくは地産地消の持っていた経済的合理性と、風土に合ったディテールの蓄積があり、町自治の意識も強く、町式目等により町単位で自主的ルールを設け運用していたことがあると考えられます。
しかし、近代化に伴い様々な工法が導入され、物流の発達により地産地消の経済的合理性が失われ、敷地単位で個々に建設されることで、歴史的風致はことごとく壊されてきました。
また、新規開発する際には全国一律の基準に基づく為、従前環境がリセットされてしまいます。
町の魅力を保つために様々な規制の網がかけられましたが、結局個々の住宅に関しては敷地単位で個々に建設され維持管理運営も個々の意識に委ねられているため、長年に渡って街並みとして魅力を持ち続け、今後も持続可能な状況で保たれる事が期待できる環境を構築しているものはほとんでありません。

街並みの持続可能性を保つために、文化庁により伝統的建築物群保存地区の指定をしている地域があります。しかし、この指定は原則凍結保存を前提としており、京都の三寧坂のように観光資源として活用されている場合は良いですが、そうでない場合は地域への資本流入の妨げとなって逆に地域活力低下が懸念されます。


キューブで事業化した、宇多野コーポラティブハウスの位置する、福王子界隈でも、従来持っていた地域の魅力が、開発によって損なわれていく状況が確認できました。
この写真の上の方にある開発団地を見るとわかるように、開発道路を通し、造成してコンクリート擁壁で宅盤を区切るために、従前の樹木はすべて伐採されることで、従前環境が完全にリセットされてしまいました。
その下に広がっている緑地帯も、最近すべての木々が伐採され、開発道路とコンクリート擁壁の住宅地に生まれ変わっています。
このように、新規に住宅地が開発される毎に、従前環境を完全にリセットするような行為が繰り返されてきました。そして地域固有の風土に育てられた街並みはどんどん失われ、どこでも同じような景色が見られるようになってしまいました。


今回の計画地でも、普通に考えれば開発道路を通して、コンクリート擁壁で宅盤を区切るのが一般的でしょう。しかし、このような地域にとっても非常に重要な点とも言える場所において、そのような事業をしてしまえば、従前環境は完全に破壊されてしまいます。
さらに、厳しい規制に基づいて建設し、植樹したとしても結局街並み維持は個々の意識に委ねられるため、将来において個々の敷地において樹木が伐採されたり、歴史的風致にそぐわない建物に建て替えられようとしても打つ手はありません。
結局、元々持っていた魅力が徐々にスポイルされ、長い年月を経て、何の魅力もない一住宅地に成り果ててしまいかねないと思います。


このように、たとえ景観ルールを設けても年月とともに相続や転売が繰り返されるとルールは有名無実化します。また、法的拘束力を伴わないルールは紳士協定に過ぎず、実行力を伴いません。それでは何も無いのと一緒です。

美しくて良好な街並みを維持するには景観に対してガバナンスの働く持続可能なシステムが必要です。しかし、そのルールは従前状況を凍結保存するだけでは次第に時代の変化に取り残され、陳腐なものになってしまいます。従って、年月を経ることにより熟成されていくような街並みを維持するためには、自らが時代の変化に伴ってルールを改定していくことができるような仕組みが必要です。

このような事をキューブ顧問の戎正晴弁護士と議論しているときに、区分所有法第65条を運用すれば、「団地内の土地、付属施設、および専有部分のある建物の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、管理者を置くことができる」ことに気づきました。

ここで管理対象となっているものが、「専有部分のある建物」となっている事にご注意ください。戸建て住宅は「専有部分のある建物」ではありません。従ってこの法律の意味するところの管理対象とはなりません。この法律に基づき管理対象としてガバナンスを効かせる為には、「専有部分のある建物」でなければなりません。「専有部分のある建物」の最小単位は2戸1住宅です。ここで、集合住宅において合意形成を得るための最小単位と、建物を管理対象とするための最小単位となる建物形状が、どちらも2戸1住宅であることに気づきました。

団地管理規約により区分所有法に基づくコントロールをすることで、敷地利用計画だけでなく、建物維持管理運営に関してもコントロールすることができます。
そのようにすれば、一定のルールの基で、美しく良好な街並みを維持することが可能となります。さらに団地管理規約は区分所有者の合意により改定することができるので、超長期を見据えた時代の変化に応じた調整も可能です。
最初に建築した建物や最初に設定した管理規約は、この団地のコンセプトを明確に表す初期設定でしかなく、年月を経ることにより熟成され、より豊かな団地へと育っていく事を期待しています。

団地管理規約により建物を管理対象とすることには、もう一つ重要な意味があります。実は建築基準法上、原則的に一敷地には一建物しか建てることができない事になっています。
ここで計画するように、一敷地に複数の建物を計画するためには、建築基準法86条に基づく一団地の認可を行政から得なければなりません。
ところが京都市は、近年一団地申請をほとんど認めていませんでした。それはかつて一団地申請で建築した洛西ニュータウン等の団地で、年月を経る中で相続転売が繰り返され、当初設定ルールが有名無実化し、勝手な増改築が繰り返されて無法地帯と化してしまった苦い経験があるからです。そこで、同じような事態にならないような仕組みの導入が、一団地申請を認可する上での必要条件でした。一団地申請を行った宇多野コーポラティブハウスは定期借地権だったので、定期借地の原契約に増改築に対する制限を入れることにより対応しました。勝手に増改築すれば定期借地契約そのものが失効するような条件を入れることにより、勝手に増改築ができない強制力を持たせたのです。
今回の計画では、団地管理規約により増改築に対するルールを制定することで、勝手に増改築ができないようにしております。このルールを団地管理規約に盛り込むことで、単なる紳士協定ではなく、区分所有法という法的根拠を持ったルールとして位置づけられることになります。この考え方に伴って、本事業の一団地申請が認められました。


このように本事業では、今までの集合住宅、街並み双方にかけていた持続可能性を、区分所有法を活用することにより得ることが出来るのではないかと考えています。


具体的な計画としては、従前の地盤面や植栽を極力活かし、このように2戸1住宅6棟計12戸を、敷地全体に点在させるように計画しました。
一般的には管理が大変であると敬遠される植栽ですが、マンションと同じように共用管理とすることで、入居者の負担を低減するように考えています。


この図面をパースにすると、このようになります。


以上のように、区分所有法を活用することで持続可能性を得ることを目指しました。
まず、一棟が2戸1なので、棟単位の合意形成が容易になりました。
そして、団地全体に関しては団地管理組合、棟に関しては棟管理組合が管理することとしました。
管理組合を2段階にし、決定権限内容を整理することで、円滑な管理が可能となるよう配慮しました。また、団地全体で景観ルールを設定し、ルールに基づいて街並みを維持することができるようにしました。
建物に関しては長期優良住宅を前提をしますが、超長期を見据えて住戸単位で戸別更新のできるルールを設定しました。
また、時代の変化に応じて、全体で一括建替えやルールの変更も可能としています。
環境共生に向けて、従前環境を生かした事業計画を行いました。
利用者に対して多様な選択肢を与えることで、長期的に持続可能性を保持することができるのではないかと考えています。
団地管理規約により、法的裏付けを伴ったルールでコントロールを行います。


このように、持続可能な集合住宅のシステムの事を総称して、1000年集合住宅と言っています。
現在の技術でも、100年や200年の構造耐久性のある建物を作ることはできます。
しかし、1000年の構造耐久性のある建物を作ることは困難ですし、たとえ作ることができたとしても未来の社会状況は予想できないので、社会的耐用性を持たせることは不可能です。

今回、あえて「1000年集合住宅」と言っているのは、あくまでも長期耐久性の技術提案ではなく、持続可能なシステム提案であることを明確に伝える為です。








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